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【感想】『小さなチーム、大きな仕事』―― Getting Real ビジネス編

Getting Realとは?

まずこの本を紹介する前に、『Getting Real』について説明します。

Getting Real - basecamp.com

上のリンク先の本が『Getting Real』です。37signals*1という会社が出していて、Webアプリの作り方をまとめた本になります。

『Getting Real』とはその英題の通り、現実を掴み取る――現実的に有用なアプリを作るための方法論が書かれています。

Getting Real的なものとそうでないもの - komagataのブログ

こちらのkomagataさんのブログで、分かりやすく要約されているのでオススメです。

そして、今回取り上げる『小さなチーム、大きな仕事』(原題:Rework)では、そのGetting Realをビジネス全体に当てはめたらどうなるか、というテーマで書かれています。

なぜ会社を作るのか

そもそもの話になりますが、なぜ新しい会社が生まれるのでしょうか?

それは、既存の会社のサービスでは問題を解決できていなかったからです。そこに問題があり、潜在的な需要があるのに、誰も取り組んでいない。だからこそ、問題解決のための手段があり、それがたまたま「会社」という形態を取る場合があるというだけです。

これは自作サービスの開発においても同じでした。まずは既存のツールを使って、問題が解決できないかを検討し、それでも不十分な場合にのみアプリの開発に着手します。「アプリを作るために問題を作る」のではなく、「問題があるからアプリを作る」という形が健全です。

実際、37signalsのHEYというサービスは、Gmailではメールの分類が難しいという問題を解決するため、立ち上げられたものです。

HEY - Email at its best, new from 37signals.

37signalsの社員たちが実際に直面していた問題を解決しようとしたのが、開発の出発点にあったそうです。

youtu.be

https://youtu.be/mCxsPkp7IiU

この動画で、DHHは次のように言っています。

DHH「俺は仕事の多くの時間をコミュニケーションツールとEmailに費やしている。だからこの領域にはこだわりがある。前者についてはBasecampで解決した。後者については問題が解決されていなかった。Gmailは無料だが、そのぶん使い勝手が悪い。だから俺は有料で、良質なEmailサービスを作ることにしたんだよ。試しにHEYを使ってみな、飛ぶぜ!」

話を戻しますが、「なぜ会社を作るのか?」に対しては、このように結論づけられると思います。

  • 解決したい問題がある → 解決するためにはこのサービスが必要 → サービスを作るためには人手が必要 → 人手を集めるためには会社が必要

もし、解決すべき問題が曖昧であれば、会社を作ってもうまくいかないかもしれません。
また、解決すべき問題が小粒であれば、個人の力だけでも充分かもしれません。

常識を見直そう

この本では全体的に、常識*2では「ヨシ!」とされていることに、「それは違うよ!」とダメ出ししています。

例えば、計画にこだわらないことが述べられています。未来はどうなるか分かりません。だから、短期計画だけを立てて身軽になることを奨励しています。

また、遠大な問題ではなく、身近で自分ごとの問題に取り組むことを推奨しています。自分自身の問題であれば、評価しやすく、ビジョンも明確になるからです。

資金調達や人員調達についても疑問を呈しています。外部の資金が入れば入るほど決定権が失われ、人員が増えれば増えるほどマネジメントが難しくなります。前の項で述べたように「問題解決のために必要かどうか」が軸であり、無闇にスケールすることは勧められていません。

最近でも、次の記事がHacker Newsでトレンドに上がっていました。

Don’t Take VC Funding - It Will Destroy Your Company | Oliver Eidel

この記事の内容は『小さなチーム、大きな仕事』で述べられていることとほぼ同じでした。

仕事を貯めない/増やさない極意

物事を進める上で、自分(LEF)が重要だと感じていることがあります。

それは、「やらないことを決めること」です。言い換えれば「無駄な仕事を増やさない」ことです。

例えば直近だと、自分はなるべくネットサーフィンするのを控えるようにしています。仮に技術的な情報だとしても、ネット上の断片的な記事が、自分の取り組んでいることに繋がることは少ないです。YAGNI原則*3にもあるように、必要な情報は必要になってから取り入れたほうが、有用性は高くなります。

また、なるべく即レス(即座にレスポンスすること)も心掛けています。

皆さんはベル通知をご存知でしょうか? そうです、タスク貯まると数字が増えるあれです。

ベル通知の画像

自分はこのベル通知が赤く光っているのが耐えられなくて、即座に反応してしまいます。せっかちだからかもしれませんが、このベル通知を光らせ続けていると、ずっと仕事が残っている気がしてモヤモヤするのです。

そのため、自分は2つの方法でベル通知と向き合っています。

  • 余計なタスクにはベル通知をつけない
  • ベル通知に気づいたら即座に対応する

前者は「余計なタスクを増やさない方法」と言えます。重要なタスクだけ、ベルが来るようにしています。

後者は、「仕事を貯めない方法」です。この本でも、「決断することで前に進む」と書かれていました。ベル通知を素早く消化するためには、決断が必要です。決断すればタスクがこなせます。

ただ、決断するためには「迷い」を捨てる必要があります。また、気力も必要です。

そのためには、充分な睡眠が欠かせません。ぐっすり眠れた翌日には、頭が冴えて、明らかにタスクをこなす量が増えています。この本でも睡眠の重要性が述べられていましたが、それは全面的に正しいです。濃密な1時間は、浅薄な10時間を凌駕します。

問題解決はとんちクイズ?

エジソンのエピソードにこんな話があります。

トーマス・エジソン - Wikipedia

エジソンの助手の1人が電球の容積を算出するために複雑な計算に取り組んでいたとき、エジソンは「私なら電球に水を入れて容積を量るよ」と言った。

電球に水を入れたほうが速い

『小さなチーム、大きな仕事』に出てくる「柔道のような解決策」を読んで連想したのがこのエピソードでした。

電球に水を入れて容量を測る、という方法は華やかではありません。しかし、迅速に、そして確実に問題を解決することができます。

本書で出てきた例とはちょっとニュアンスが異なってしまっていますが、自分が今持っている技術や道具だけを用いて問題解決する方法は、(機転を利かせれば)意外と多くありそうです。

よりスリムに、よりシンプルに

前回のブログ記事で、Skypeの衰退について取り上げました。

Skypeに何があったのか? ―― 競合サービスにシェアを奪われる要因とは - LEFログ:学習記録ノート

なぜ衰退したのか。それは、本来Skypeが取り組むべき「核となる問題」の解決をせず、余計な機能を増やしすぎたのが問題でした。

この本では繰り返し、「核となる問題」を解決しろと述べています。

更に、「他のサービスとの比較」が有害であることも述べられていました。他のサービスに機能面で勝つ必要はありません。それどころか、機能を減らしたり、削除することを勧めています。

一見、直感に反していますが、これを実践している大企業があります。

そう、Appleです。Appleは昔から自社製品の様々な機能をオミットしています。しかし、それは製品にとってプラスの効果をもたらしています。

もっと身近な例もご紹介しましょう。

自分の近所にとあるラーメン屋さんがあります。そこのラーメン屋さんはいつも混雑していて、しかも3時間くらいしか開店していません。週に4日しか開いていないらしく、メニューもわずかな種類しかないそうです。家族経営であり、店員を雇っていないため、収益率は高そうです。

また、こんな事例もあります。皆さんはTextforceというアプリをご存知でしょうか?

2017年の6月で更新が止まってしまっていますが、これ、自分の中ではとても伝説的なアプリなのです。

Dropboxと連携したiPhone専用のテキストエディタです。無駄な機能が一切入っていなくて、それでいて必要な機能は全て揃っていて、足し引きできない絶妙なバランスが保たれている、一種の芸術作品のようなアプリでした。

他のテキストエディタは機能が多すぎてどうもしっくりきません。今はTextforce難民になってしまっています。*4

話を戻すと、「機能が少ないことは武器にもなり得る」ということを、自分の体験談も交えてお伝えしたかったのでした。

大企業にはできないことをする

『小さなチーム、大きな仕事』には具体的なビジネスの方法論が書いてありますが、ひとことにまとめるとこう言い表せるでしょう。

――大企業にはできないことをする

本書の「プロモーション」の章では、次のようなことが述べられています。

  • 自分の会社・製品を愛してくれるファンを作る
  • 積極的に情報をオープンにする
  • 制作過程を見せる
  • 自分なりの言葉で相手に届ける
  • お試し版を提供する
  • ありきたりな広告方法に頼らない

これを読んで連想したのは、ジブリです。

ジブリはアニメーション制作会社として、世界中にファンを持っています。そして、制作過程もドキュメンタリー番組にしています。宮崎監督は自分なりの言葉で作品について語り、地上波では無料で過去の作品を観ることができます。最新作では「広告を打たない」という戦略を取りつつ、自社の『熱風』という雑誌は定期的に更新しています。*5

実際のところ、単純な広告はあまり効果があるように思えません。CMを見て、買いたいと思った商品は思い出せないです。逆に、広告が原因であまり良くない印象を持ってしまった会社はあります。

タピオカとかポケモンGOとか、口コミのほうが遥かな力があると感じます。

そもそも、単純なプロモーションでは、大企業に対して勝つ術はないでしょう。そうではなく、まずは(自分を含めた)身近な人に提供して、本当に良いサービスであることを確信して頂き、口コミで広めてもらったほうが確かなファンを掴み取ることができそうです。

おわりに

今回、『小さなチーム、大きな仕事』の感想を書くのはとても難しかったです。

というのも、本書そのものが良いバランスでまとめられていて、自分の感想や考察がかえって論旨を不明瞭にするおそれがあったからです。また、自らのビジネスに対する知識の浅さもありました。

一つだけ言えることは「スケールはいくら遅くても大丈夫だ」ということです。

youtu.be

https://youtu.be/HHjgK6p4nrw

こちらの動画「Guy Kawasaki: The Top 10 Mistakes of Entrepreneurs」でも述べられていました。

「多くのスタートアップが最初から急成長することを考えてスケールしようとする。しかし実際には、スケールが遅くて倒産する企業は今まで無かった」

Mistake 2: Scaling too fast. You anticipate huge growth and customers that will love your product and you invest so much and then it turns out no one wants to buy your product, and you run out of money.

この動画が公開されたのは2013年ですが、『小さなチーム、大きな仕事』が書かれたのは2010年です。そういう意味でも、37signalsには先見の明があったと言えそうです。

どの方向にも迅速に機動的に動けるように、個人のレベルでも組織のレベルでも、もっと身軽になりたいと思いました。

――デスクトップパソコンは、もう要らない。*6


*1:2021年にBasecampから社名を戻したらしいです。

*2:ビジネスに対する曖昧な理解

*3:https://wa3.i-3-i.info/word17076.html

*4:現在はAndroidに乗り換えており「Jota+」を使っております。Textforceとは正反対の方向性ですが、好きなテキストエディタです。

*5:インディーズ時代の新海誠監督のほうが良い例だったかも

*6:自分のトラウマの意。詳細は→2002 Hours in 365 Days: I will definitely buy a laptop next time💻 | FBC